年頭所感

2020年1月
損害保険料率算出機構
理事長 浦川 道太郎

新年のご挨拶に先立ち、昨年に発生した台風や大雨などの自然災害により亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げますとともに、被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。

近年わが国は、地震や台風などの自然災害に悩まされる年が続いています。昨年も台風15号や19号などによる風水災の被害が全国各地で発生しました。特に台風19号による被害は激甚災害に加えて非常災害にも指定され、日本列島に大きな爪痕を残すものとなりました。

昨年はそうした痛ましいニュースが多かった一方で、明るい出来事でもわが国が世界の国々から注目を集めた年でありました。
令和の世になり、10月には天皇陛下の即位礼正殿の儀が執り行われました。この式典の模様は、世界各国のメディアで紹介され、日本文化の奥深さが世界に広く発信されました。
また、スポーツや研究の分野に目を向ければ、ラグビーワールドカップにおける日本チームの活躍、吉野彰氏のノーベル化学賞受賞など、国内外を問わず、わが国の持つ力を大いに実感できたのではないでしょうか。
さらに本年は、いよいよ東京オリンピック・パラリンピックが開催され、わが国の魅力、技術力を全世界に発信できる絶好の機会が続きます。そして、これを契機にわが国の自動運転やAI等の技術革新は急速に進展すると見込まれています。

私どもの損害保険業界も、気候変動に伴う自然災害の激甚化や急速に進展するAI等の技術革新、少子高齢化の進展等、様々な自然環境や社会情勢の変化を注視しながら、これらに的確・迅速に対応し、契約者および被害に遭われた皆様に、より良いサービスを提供していくことが求められています。

当機構でも、社会のニーズを満たすために、2013年度に策定した長期ビジョンである「損害保険料率算出機構 今後の10年ビジョン」(以下、「10年ビジョン」)の下、以下の取組みを進めています。
10年ビジョンでは、社会環境の変化に柔軟に対応し、「既存業務の基本的構造の見直しと新たな付加価値の創造によって、損害保険業の健全な発達を支え、広く社会から評価される存在を目指す」ことを掲げています。この10年ビジョンの実現を目指し、第5次中期業務計画(2013~2015年度)、第6次中期業務計画(2016~2018年度)を経て、昨年度からは、10年ビジョンの最終年度に合わせて設定した第7次中期経営計画(2019~2022年度)をスタートさせました。本年はその初年度を終え、2年目に入る年です。

第7次中期経営計画では、「改革と創造」をテーマにしています。「改革課題」は、第6次中期業務計画から継続または発展させた課題を完遂することで、現行業務モデルにおけるアドバンテージ(業務成果の強み)の最大化を目指しています。また、「創造課題」は、技術革新の急速な進展および地球温暖化の進行等の激変する環境変化に先見性をもって対応するため、10~15年先の中長期的視点から新たな業務モデルの構築を目指すものです。

以下、当機構の主要業務である「料率算出業務」、「損害調査業務」および「データバンク業務」とそれらの土台となる「組織基盤」の4つの項目について、第7次中期経営計画における主な取組みについて述べたいと思います。

1.料率算出業務

(1)改革課題

リスク実態に見合った料率水準と保険料負担の公平性の向上を実現するため、マーケット環境・リスク環境の変化を踏まえて料率検証・算出手法の改善を進めています。
地震保険では、東日本大震災を契機に大きく見直された震源モデルを踏まえ、基準料率の改定を2015年以降3回に分けて行うこととし、昨年5月にはその最終段階である3回目の改定の届出を行いました。また、火災保険では、2018年に発生した台風21号などの自然災害の影響を踏まえた参考純率の改定の届出を昨年10月に行いました。そして、自動車保険では、2020年1月1日から、参考純率における型式別料率クラス制度について、自家用乗用車の区分数を9から17区分に細分化するとともに、新たに自家用軽四輪乗用車にも同制度による区分を導入しました。
このほか、ASV(先進安全自動車)技術の普及による料率水準への影響分析、自然災害に関するリスク評価モデルの改善、高齢化の進展を踏まえた料率制度・体系の改善等の課題にも引き続き取り組んでいます。

(2)創造課題

今後のコネクテッドカー・自動運転車の普及により、IoT(モノのインターネット)を活用した各種デバイスを通じて生成される各種データに基づくリスク分析・自動車保険制度に対するニーズが見込まれます。そのため、自動車保険参考純率における商品・料率制度体系上の対応領域・内容の検討や情報発信に活用することを目指し、新たなデータの収集や分析体制の構築に向けた検討を進めています。
また、地球温暖化への懸念が高まる中、近未来の気候変動予測および影響評価に関する各種研究が進展しています。そのため、それらの研究成果を活用した影響分析や情報発信について、検討を進めています。

2.損害調査業務

(1)改革課題

当機構では、自賠責保険における損害調査として、年間で130万件以上の案件を受け付けています。これら一件一件に、迅速かつ的確な損害調査を実施し、お客さまや保険会社等の満足度を高めるため、業務品質の向上を図っています。
また、各種事務ミスの発生防止策の実施等による基本品質の確保・向上、WEBやメール活用によるお客さまや保険会社等の利便性、サービスの向上、蓄積された大量のデータ等を活用することによる不正請求防止対策の実施等の課題にも引き続き取り組んでまいります。

(2)創造課題

請求関係書類の電子データへの移行が見込まれます。そのため、ペーパーレス化に対応した態勢整備について検討を進めています。また、今後の自動運転車の普及に対応するデータ記録装置の活用等、新たな調査手法の構築による精緻な損害調査業務についても、検討を進めています。

3.データバンク業務

自然災害の激甚化や高齢化の進展も踏まえ、社会全体の事故防止および損害軽減に寄与するため、当機構内外のデータを活用した情報発信を強化しています。昨年は、事故防止・損害軽減等に向けて、住宅の水災被害に関するレポートを公表し、その中で火災保険契約における水災補償の付帯率を統計情報として掲載したほか、高齢運転者による交通事故の実態等を解説したレポートも公表の準備を進めてまいりました。
また、アジア諸国における損害保険市場の健全かつ安定的な発展に向けて、損害保険協会や各損害保険会社、国際協力機構等の関係機関と連携し、技術協力を進めています。特にミャンマーについては、金融庁が主催する『ミャンマー保険セクター支援計画(COMPASS)』に参画し、同国の自動車保険の料率検証・見直しに向けたデータ収集の基盤づくりのサポートを行っており、昨年はミャンマー保険協会と協力して全保険会社統一のデータ入力用テンプレートを作成しました。現在では、全社分データが徐々に収集されつつあり、料率見直しに向け着実に前進しています。
引き続き、こうした社会に寄与するための情報発信やアジア諸国への技術協力に取り組んでまいります。
なお、情報発信の一環として、昨年4月には損害保険に関する解説書『これだけは知っておきたい損害保険』を刊行しました。これは、わが国に料率算出団体が設立されて2018年に70周年を迎えたことを記念したものでもあります。

4.組織基盤

「改革課題」「創造課題」に取り組むため、組織基盤の整備・強化を進めています。
働き方改革の観点では、昨年、テレワーク、シフト勤務制度および時間単位年休制度を導入しました。
引き続き、「働き方改革」「人財確保・育成」「ガバナンス機能の強化」の観点から組織基盤の整備等に取り組んでまいります。


当機構は、現在、日本唯一の料率算出団体として本年もその社会的使命を果たし、ステークホルダーの期待に応えるべく、役職員一丸となって業務に専心してまいりますのでご理解とご支援をよろしくお願い申し上げます。

最後に、皆様にとって本年が実り多い年となることを祈念して年頭のご挨拶といたします。


以 上

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