年頭所感

2024年1月
損害保険料率算出機構
理事長 早川 眞一郎

新年のご挨拶に先立ち、元日に発生した能登半島地震により亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げますとともに、被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。

昨年は、新型コロナウイルス感染症の「5類」移行により3年以上続いた行動制限が緩和され、社会生活や経済活動にとって大きな区切りの年となりました。コロナ禍によって引き起こされた大きな変化は、人々の生活と社会のあり方に深い影響を与えましたが、それはマイナス面だけではなく、新たな価値観の構築と技術の進歩をもたらしました。

一方で昨年は日本の観測史上最も暑い夏になり、線状降水帯による水害が多発するなど地球温暖化リスクを実感する一年になりました。また自動運転技術の進化や新しいモビリティの導入、高齢化社会の進展等により日常のリスク環境も変化を続けました。

世界に目を向けるとウクライナ情勢の長期化やパレスチナ情勢等により地政学リスクは深刻さを増し、資源価格の高騰や物価上昇等、世界的な不確実性がいっそう高まりました。

このようなリスク環境の下、持続可能な社会の実現に向けた損害保険の役割は益々重要になり、保険契約者等の期待も高まってきています。弊機構もその一翼として、会員保険会社の料率算出に必要な料率・リスク関連情報の提供や自賠責損害調査を遂行する中でその役割の重さを日々実感しています。特に昨年実施した一連の料率改定では、報道機関や保険契約者等から多くの関心が寄せられ、基準料率・参考純率の客観性・信頼性の重要さを改めて認識した次第です。

折しも損害保険業界では、大手中古車販売会社等による保険金不正請求や企業保険の保険料事前調整問題により保険契約者等の信頼を揺るがす事態が生じ、業界を挙げて信頼回復に努めております。弊機構としましても参考純率に対する社会からの信頼性を維持すべく適切な対応を行っていく所存です。


弊機構は昨年4月、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の達成に向け第8次中期経営計画「Vision2025 ~発展と信頼~」をスタートさせました。本計画は、損害保険にかかるインフラ機能の強化を通じて持続可能な社会の実現に貢献することを「目指す姿」として据え、さまざまな環境変化への対応を通じて社会へ新たな付加価値を提供する「発展課題」と、業務品質の維持・向上への対応を通じて社会からの要請に応え続ける「信頼課題」に分けて、3か年で取り組むものです。「発展課題」では、環境変化を踏まえ、将来的な料率算出やデータ収集の課題に取り組みます。「信頼課題」では、業務品質の維持・向上のため業務プロセス改革等に取り組むとともに持続可能な組織作りにも注力してまいります。

2023年は、こうした課題の取組みを含め、絶えず変化を続けるリスクや事業環境への対応に努めました。料率算出業務では、自賠責保険基準料率や火災保険参考純率の水準改定、水災補償への市区町村別料率の導入、自家用軽四輪乗用車の料率クラス数拡大の届出を行いました。損害調査業務では、ペーパーレス対応や業務集約・拠点の見直し等の改革プランを進めました。データバンク業務では、わかりやすくタイムリーな情報発信に力を入れ、弊機構Webサイトに一般消費者への情報提供として、気候変動、自動運転、地震被害状況等の安心・安全のために役に立つ各種レポートを掲載しました。また、国際業務では、アジア諸国の料率算出団体等をメンバーとするIIRFA(アジアにおける保険情報および料率算出フォーラム)を東京で10年ぶりに開催し、参加各国との情報および意見交換を実施、交流を深めました。その他、組織強化のため、組織改編、エンゲージメントサーベイの活用、全社的な意見交換会等を実施し、MVVの浸透とよりよい職場づくりに努めました。


本年は第8次中期経営計画の2年目にあたり、これまでの検討を通じて明らかになった諸課題に着実に取り組み、形にしていく重要な年になると考えております。

「発展課題」では、2025年度市場化目途とされているレベル4の自動運転車や昨年法改正され普及し始めた電動キックボードをはじめとする新たなモビリティに対応した料率制度・体系の創出に取り組んでまいります。また、自然災害への対応として、経済価値ソルベンシー規制や気候変動リスクの影響評価に資するリスクモデルの高度化やリスク情報の拡充に引き続き取り組んでまいります。このほか、将来の料率算出やリスク情報提供に向けて車両走行や建物詳細等の新たなデータ収集・活用についても引き続き検討を進めてまいります。

「信頼課題」では、データ整備および料率算出業務の最適化、自賠責損害調査業務の品質向上等の業務プロセス改革に取り組みます。特に自賠責損害調査のペーパーレス化については、業界共同システムとの連携を深めつつ弊機構内での検討を進めてまいります。

このように課題は様々ですが、私共の社会的役割への期待と信頼に応えるべく専門性・生産性を高め、組織一丸となって業務に邁進してまいります。本年も何卒ご理解とご支援をよろしくお願い申し上げます。


皆様方におかれましては、この1年が新たな成長と飛躍の年となりますよう心より祈念いたしまして、新年のご挨拶とさせていただきます。



以 上

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