理事長ステートメント

料団法公布・施行および料率算出団体設立70周年を迎えて

2018年11月1日

本年は、日本の損害保険制度にとって節目の年にあたります。

「損害保険料率算出団体に関する法律」が1948年に公布・施行され、同年11月には日本初の料率算出団体である損害保険料率算定会(現・損害保険料率算出機構)が誕生しました。それから本年で70周年を迎えます。

損害保険料率算出機構の理事長として、これまでの70年間を振り返るとともに所感を申し上げます。

1.料率算出団体の意義

損害保険は、自然災害や交通事故などにより被る経済的損失を補償し、安心・安全な社会を支えるインフラの一つです。この損害保険の保険料率を適正な水準で維持することを通じて、損害保険業の健全な発達と、保険契約者等の利益保護を実現するために制定されたのが、「損害保険料率算出団体に関する法律」(料団法)です。この料団法に基づき、損害保険料率算出機構が設立されています。

私たち損害保険料率算出機構は、現在、日本唯一の料率算出団体として、社会政策的な側面をもつ自賠責保険・地震保険について基準料率を、自動車保険・火災保険・傷害保険等について参考純率を算出しています。また、自賠責保険・共済の損害調査業務も行っており、これらの業務(保険料率算出および損害調査業務)を通じて保険会社等から収集・蓄積した大量のデータや専門的なノウハウに基づき、一般消費者の皆さまに損害保険制度をよりご理解いただくための情報発信も広く行っています。

「皆さまに寄り添い、安心を届ける損害保険。保険料率算出や自賠責損害調査などを通じて、損害保険を支えているのが損害保険料率算出機構です。」―これは私たちのウェブサイトのトップページに掲げている文章です。私たちはこの精神で、今後も社会的使命を果たすべく、役職員一丸となって業務に専心してまいります。

2.料率算出団体の軌跡

この70年間を振り返ると、私たち料率算出団体はその時々の社会情勢やリスク環境の変化に応じて組織形態や業務内容を変化させ、ステークホルダーのニーズに対応してまいりました。

遡ること1948年、料団法が公布・施行され、同年に損害保険料率算定会(損算会)が設立されました。これは、ダンピング競争により保険会社倒産が相次いだ歴史的経緯を教訓に、将来の保険金支払いを可能な限り的確に予測し、各保険会社の保険料率を適正な水準に維持することが急務となったことを背景とするものです。その後、1951年には保険業法・料団法が一部改正され、保険会社に料率算出団体が算出する保険料率の遵守義務が課せられることとなります。

戦後から間もなく、自動車の保有台数が急速に増加していきます。交通事故による被害者も増加の一途を辿り、被害者救済の世論の高まりを受けて、1955年に「自動車損害賠償保障法」が公布・施行され、同年に自賠責保険制度が発足しました。

損害調査に関しては、制度発足当初からの課題である公平・統一的な調査の実施に向けて、1956年に自賠責保険共同本部・自賠責保険共同査定事務所が設立され、これらの組織とともに損算会の一部業務を移管する形で、1964年に自動車保険料率算定会(自算会)が設立されました。

そして、この年、1964年には、新潟県を中心として九つの県に甚大な被害をもたらした新潟地震が発生しました。地震災害に関して保険制度創設の必要性は叫ばれてきたものの、地震災害の発生頻度の低さや、一度大規模地震が発生すると巨額な損害をもたらすという特性から、制度創設が容易には実現しないなかでの大規模地震の発生でした。この新潟地震を契機として損害保険業界と政府で幾度も検討を重ね、1966年に「地震保険に関する法律」が公布・施行され、同年に地震保険制度が発足しました。以降、私たちは50余年にわたり、地震保険の料率算出を行っています。

日本の損害保険業界は、長らく主要な保険種類は保険料率や商品内容が全社一律でしたが、1990年代に規制緩和・自由化を背景とする「日本版ビッグバン」という大きな変化が訪れます。日米保険協議では1996年の合意に至るまで、リスク細分型自動車保険の解禁や、傷害保険等の第三分野商品の生損保相互参入など、様々な事項が議論の的となりました。さらに、1998年には料団法が全面的に改正、保険料率が自由化され、料率算出団体は保険会社に遵守義務がない参考純率・基準料率を算出することとなりました。そして、2002年に損算会と自算会が統合し、現在の損害保険料率算出機構となりました。

3.現在、そして今後の取組み

現在、私たちは、自然災害の激甚化、少子高齢化による人口動態の変化、先進安全自動車の進展等の環境変化を踏まえ、大量のデータやノウハウなど前述の強みを活かし、損害保険の理解促進・普及や損害軽減・事故防止に資する活動に積極的に取り組んでいます。例えば、地震保険などのデータ蓄積や調査研究活動の成果を生かした情報発信をウェブサイトにて行っているほか、日本損害保険協会「そんぽ防災Web」への統計データ提供も行っています。

また、保険会社の海外事業展開等に資する取組みも推進しています。昨今、アジア諸国では経済成長が著しく、モータリゼーションが到来していますが、損害保険の発展期にある国・地域も少なくなく、日本に蓄積されてきた損害保険に関するスキーム・技術が求められています。私たちは料率算出団体として、これらの国・地域へのデータ整備・料率算出に関する技術支援に積極的に取り組んでいます。

加えて、近年は、デジタル技術が急激な進展を見せており、様々な場面でのAI技術の活用が期待され、ビッグデータを利活用するデータサイエンス分野も目覚ましく深化しています。損害保険マーケットや保険会社、ひいては保険という商品のあり方それ自体が、これまでとは比較にならない速度で変化しており、料率算出団体へのニーズも当然この例外ではありません。私たちは柔軟な発想や行動力をもってスピーディに変化に対応し、社会インフラとしてこれまで以上に頼られる存在となることを目指してまいります。

4.終わりに

本年は大阪府北部の地震、西日本豪雨、北海道胆振地方中東部の地震などの自然災害では大きな被害をもたらしています。お亡くなりになられた皆さまに哀悼の意を表しますとともに、被災された皆さまに心よりお見舞い申し上げます。損害保険が皆さまの暮らしの復旧・復興の一助となることを願ってやみません。

今後も、社会的使命を果たし、保険契約者等の方々も含めステークホルダーの期待に応えるべく、役職員一丸となって業務に専心してまいります。ご理解とご支援をよろしくお願い申し上げます。


損害保険料率算出機構

理事長 浦川 道太郎